新装刊として再発進リブートすることとなった「ミニスカ宇宙海賊」が、ついに書店にて展開されることとなった。もちろん、電子書籍も好評配信中だ。再刊行にあたって原作者はどんな視点で作品を見つめ直したのか。アニメとして多くの人に「ミニスカ宇宙海賊」を知らしめた映像制作秘話とは。そして、いま一番気になる噂の最新刊の進行具合はどうなっているのか。一部、記すことができないほどにいろいろな話題が飛び交うこととなったスペシャル鼎談!
●原作、そしてアニメ化について
――これまでの12巻分をKADOKAWAで再刊行をするにあたり、ゲラチェックをしているそうですが。
――どういうところをチェックしているのですか?
重点的にチェックしているのは論理関係がおかしくないか。これは毎回やっているんですけど、キャラクターが一貫しているかどうか、前後で矛盾していないかどうか。椅子に座っていたはずなのにソファから立ち上がっていたりして、そこを指摘されて「あっ、俺のミスだ」と思ったり(笑)。
――以前のご自身の文章を読み返すことに関してはいかがですか?
実はデビューして10年くらい経ったときに、10年前の文章を読み返したことがあったんですよ。昔書いたラブレターを、10年後の真っ昼間に読み返す気分でした。それをさらに20年後に読み返すことになったんですけど、これを本気でやるとPTSDになると思って、赤が付いているところだけチェックして、あとはお任せ!という感じでやりました。
僕も今、20年前に書いたエッセイと10年前書いた小説をNOTEにアップしているんですけど(https://note.mu/seitenhyohyo)、見直すとイヤですね(笑)。だから、赤を入れてくれる編集さんがいたほうがいいですよね。僕は個人でアップしているからツラくて。分量的にはそうでもないけど、「うわ~生意気、俺」みたいな(笑)。
――『ミニスカ宇宙海賊』は、初期の作品でもないですから。
作家を30年以上やってますので、10年前くらいの作品だと文体は出来ていますから、もうちょっとうまくやれたよねというのはありますけど、そこはKADOKAWAの校正さんが「こんなふうに直したらいいんじゃないですか?」と入れてくれているので、助かっています。
――そもそも『ミニスカ宇宙海賊』で、スペースオペラを書こうと思ったきっかけは、何だったんでしょうか?
いつかスペースオペラを書きたいとは思っていたんです。実際に、宇宙海賊の女の子と『宝島』だろうと思って書いた『星のダンスを見においで』というものがあるんですけど、そのあとに宇宙開発の取材を本格的に始めたんです。1994年に友人に誘われて、H-Ⅱロケットの初号機を種子島に見に行きまして、これがすごく面白かったんですね。ロケットというのはプレス席でも3km離れているんです。延ばした腕の先で親指を立てて、その爪の高さと同じくらいにしか見えません。それが飛び上がると、10秒くらい経ってから、至近距離で怒鳴っても聞こえないくらいのものすごい音が来るんですよ! それがしばらく聞こえるのにロケットは離れていく。そこまでしないと宇宙に行けないのかとか、ここまですれば宇宙に行けるのかとか、いろんな事を考えたんです。
それがあまりに迫力があって面白いと。種子島に誘われたときは、行けるときに行っといたほうがいいかなくらいの気持ちで行ったのに、結局その後、種子島とか内之浦での打ち上げに、ほぼ全部行ったんです。それまでも宇宙センターに行ったりはしていたんですけど、現場に取材という立場で行くと、現場の人に直接話が聞けるんですね。そこで気づいたんですけど、打ち上がるロケットから、乗っている衛星から、打ち上げ設備から、職員食堂のメニューまで、シームレスに全部に興味を持っているのはSF小説家くらいしかいないんですよ(笑)。ロケットのニュースを見ても設備の紹介なんて滅多にやってませんでしょう?
――そうですね。では、小説を書くための取材の気持ちでも見に行ってたんですね?
今だとそれこそネットでわかりますけど、現場に行けばプレスキット(報道用資料)というのがもらえるんです。それは現場に行かなければもらえなかったし、参考資料になりました。簡単な設計図的なものまで載ってますから。野田大元帥(野田昌宏)の手引きで、スペースシャトルの取材も行けましたし、それはすごく役立ちました。
――そうして『ミニスカ宇宙海賊』を書き始めて、すぐにアニメ化の話が来たんですよね?
アニメ化は、小説が発売して一週間とか10日くらいで話が来たんですよ。
そんなに早かったんですか(笑)!
刊行が2008年の10月ですね。そこから、今は引退した大月(俊倫)さんが朝日ソノラマに連絡をして、イベントで何度もネタにさせてもらいましたけど、年末の中野駅で僕に「監督をやらないか」と声をかけてきたんです。
見ていたわけではないですが、その光景が浮かびます(笑)。
『ミニスカ宇宙海賊』というタイトルは仮で付けていたんです。これは原作1巻のあとがきにも書いてましたが、そのままのタイトルで刊行することになっていたので、他に何かいいタイトルをひねり出そうとしたんだけど、なにやってもこれよりもわかりやすくならない!と。だって、このタイトルで、若い女の子が主人公のスペースオペラだってわかりますでしょう? 世の中わかりやすいのが正義だろうと思って決めたんです。おそらくそのわかりやすさもあって、アニメのプロデューサーさんが見つけてくれたのではないかなと。で、その見る目のあるプロデューサーがどんな方ですか?と編集部に聞いたら、大月さんで「えー!」と。何と言っても『新世紀エヴァンゲリオン』のプロデューサーですから、そんな大物が!と思いました(笑)。
――アニメ化されて、タイトルが『モーレツ宇宙海賊』になるんですよね。
"ミニスカ"がダメだったらしく。でも"モーレツ"と出したのも私で、まさか"モーレツ"がOKだと思わないじゃないですか。さらにひどいのを出せば"ミニスカ"になるだろうと思っていたら、"モーレツ"が通ってしまったという(笑)。
――笹本さんは、佐藤監督のことも知っていたんですよね?
佐藤竜雄という名前を初めて意識したのが、『赤ずきんチャチャ』の3話だから、94年くらいです。1~2話は堅実な作りをしていたのに、3話目でいきなりはっちゃけたんですよ。「なんじゃこれは!」と思ってスタッフを見たら、佐藤竜雄と書いてあって、これは気をつけなければならん!と(笑)。
ちょうど30歳の頃だから、生意気ざかりですよね。監督になるかならないかはこれにかかってる!という感じで作っていたので、かなりやりましたね。監督の立場からすると、とんでもない奴だなって、今なら思います(苦笑)。
――でも、実際に監督になられて。
そこでキングレコードさんに目をつけられて、1本NHKのアニメをやったあとに、『機動戦艦ナデシコ』で声がかかったんです。
――そこでさらに名前も広まっていき。
星雲賞(99年受賞)もいただきましたからね。まさかその後『モーレツ宇宙海賊』(13年受賞)でももらえるとは思ってませんでしたけど。
ありがたい限りです。
――佐藤さんは、小説を読んだときにどう思いましたか?
声がかかったのが早かったので、1巻しか出てなかったんですよ。なので「どうすりゃいいんだよ」と(笑)。でも、そのあと2巻、3巻が出ますと聞いて、テキストももらっていたんです。
書いた端から関係者に回してくださいと。私、そこらへんは抵抗がなく、完成原稿でなければイヤだとかもないので、必要だったら全部回してくださいと言いました。
で、3巻までは目処が立ってると。ただ、2クールというアニメのフォーマットを聞いたときに、実際に26話でやるのなら、あと1年待たないとダメだよねと思いました。しかもそのときは2010年に放送が始まる予定だったんですよ。なので、必然的に3巻までを1クールでやって、後半はオリジナルでやるしかないんだけどなって感じでした。そしたら任せてもらえたんですよね。ただ、翌年に2012年に放送開始することが決まってしまったので、結局待ってたほうが良かったんじゃないのとは思いましたけど(笑)。とはいえ走り出してしまったし、逆算すると宇宙船の3Dモデルを作るのにも時間がかかるので、見切りでスタートしなければならなかったんです。そういうこともあり、キャラクターに関してもアニメはアニメでやるしかないので、あきまんさんにキャラクターデザインを振りました。1巻しか出ていないのにアニメ化するぜ!と2008年の年末に言われ、10年4月スタートって待ってくれよ…と思いながら、結局その後、放送が2年も伸びるという(笑)。
――内容に関して、特に面白いなと感じた部分はありましたか?
基本的に、SF面で積み上げていく設定はすごいなと思いました。でもある意味、主人公の加藤茉莉香が女子高生で艦長になるというところで、周りの人間たちに対する管理術というのが逆なんですよね。周りが艦長を育てていくみたいな。年若の経営者を周りのベテランが育てていく企業ドラマ的なところがあって面白いなと。結局アニメのほうでは触れられなかったその後の話でいうと、それなりに経験値を高めていくと、今度は年下の部下たち……いわゆるヨット部の連中がかき回すので、今度は胃が痛くなるという。若いなりに苦労しているねっていうのが楽しいんですよね。そのへんの観点ですかね。やはり(SFを)ビジュアル的に見せるのはアニメでは限界があるので、人間関係に比重をおいて描いていこうかなと思っていました。
――スペースオペラではあるながら、そういう人間ドラマの部分が面白かった?
女子高生としての顔と艦長としての顔。弁天丸に乗っているときとヨット部にいるときでは、同じパーソナリティなんだけど、立場が違うと考え方とかも変わるよなっていう。そこを悪戦苦闘しながらやってるけど、それに負けない明るさがある。その明るさを最大限にアニメでは活かしていこうとは思ってました。話の展開上、彼女が考えたり悩んでいる状況は見れば分かるので、茉莉香はことさら描写として悩ませないようにしました。そのほうが宇宙のスケール感は出るので。
●主人公・加藤茉莉香について
――加藤茉莉香の話が出たので、小松さんに本格登場していただき、加藤茉莉香を中心に話をしていきたいのですが、小松さんにとっても、代表する役になりますよね。
はい。大きな船に乗せていただけたなと思っています。
――役を頂いたオーディションのときの思い出はありますか?
最初に資料を頂いたときは、原作が出て間もないというところで、原作のイラストのイメージとアニメのキャラクターのイメージの、どちらのイメージでやればいいんだろうって、ど新人だったのでわからなかったんです。字で得られる情報と絵で得られる情報がうまく合致しなくて、悩みながらオーディションに行きました。しかもその時は、どのオーディションでも、行くだけで緊張していて、うまくやろうという次元ではなくて、自分をぶつけるのに精一杯だったんです。かつ緊張してるので、120%でやりたいのに70%で収まっていた状況で、結構いっぱいいっぱいでオーディションを受けていたかと思います。バイト先でのシーンがあって、何度もディレクションをいただきながら演じた記憶がありますね。
――加藤茉莉香は自分に近いなとかはなかったですか?
いや、近いというより、かけ離れた存在ではあるのかなと。だって宇宙海賊ですから、そこにどうすり合わせていこうかという感じでした。女子高生は自分も経験してきたので、それくらいしか共通点はなかったんです。統率するタイプでもないし、面倒見も良くないし、振り回されてきたかと言われたらそうでもないし。逆に現場でその感じを理解していったところはあります。
――小松さんを選ばれた理由は、どんなところだったんですか?
細かい芝居というよりも、ランプ館でバイトをしているときの第一声の「いらっしゃいませ」ですね。これが一番ハマったんです。キャラクターイメージが先にあって、そこに当てはめていくやり方は今回はしないようにしよう、掛け合わせで行こうと思っていて、その分周りをベテランで固めていきました。これは昔からあるアニメの作り方なんですけど、今回は登場人物に年齢の幅があったので、非常に配置がしやすかったんです。
――笹本さんから見て、茉莉香の声はどうでした?
私、アテ書きってほとんどしないんです。唯一やってたの『ARIEL』でハウザー艦長に塩沢兼人さんを当てて書いたくらいで。で、今回も全然それはやっていなかったので、お任せしたほうが絶対にいいものになるだろうと。声優さんの声はプロのほうが本気で聞いているのだから、そこは信頼して任せっきりでした。ただその後、オーディションくらいは参加させてもらえば良かったかなと思いましたけど。
(一同笑)
みなさんがどういう声を聞いて、どういう反応をしているのかは知りたかったなと。
決まってから初めて声を耳にしたんですか?
はい。途中の段階でも聞かせてと言えば、聞けたんだろうけど「しまった、もう決まってた」と(笑)。
――ノータッチだったんですね。
まず、キャラクターのデザインを変えると聞いたときに、私は「こちらの解釈でやらせてもらいますので、よろしく」ということだと受け取ったんですよ。
同時進行に近かったから、ある意味合わせようがないというか、三題噺に近いですから…。
なので、そこで全部お任せすることは決めていたので、好きなようにやってくださいと思ったんです。でも、アニメの絵にぴったりでしたよね。おかげでそのあと話を書き始めたときは、キャラが軒並みアニメの声で話すようになっちゃって、それでちょっと変わってしまったりすることはあったでしょうね(笑)。たとえばヨット部のキャラクターなんていうのはアニメできっちり設定を作ってもらった子が多くて、こちらでヨット部のメンバーを書かなくてはいけなくなったときに、無駄な抵抗はやめようと思いました(笑)。あるのだからそのまま書いちゃえばいいじゃんっていう。
3巻の段階だとあまり出ていなかったですよね。
操舵士のアイちゃんと、機関士のヤヨイくらいしかいなかったと思うんですよ。
――それ以外のキャラクターを作っちゃったんですね。
教師になったケインがヨット部員たちの履歴を見るシーンもあるし、EDはとりあえず弁天丸のクルーに加えてヨット部員のデータを全部出す構成にしようかなと。でもそんな設定もないので、だったら考えちゃえ!ってパラメータを作ったりして。その時点ではヨット部員たちがあんなに活躍するとは思っていなかったので……。ただ、そのときに考えたパーソナルデータが、オーディションのときに渡されるという事態になり、役者さん達にこんなに細かく設定してるのすごい!って思われるという。これ、EDのために書いたつもりだったんですけどね(笑)。
――実際に茉莉香を演じてみて、いかがでした?
作品がアニメ化すると決まったのが08年ということは、私が声優を始める前なんですよね。私が初めてアニメに携わった作品が男の子役だったんです。でも、そのあとオーディションを受けても、次の役が全然決まらず……。当時21歳だったんですが、来る役が女の子しかなくて。しかも当時自分の不得意分野である、かわいらしい女の子のオーディションが多かったので、自信がどうしても持てない中でオーディションを受けていた時期で…。なのでこの作品が、女の子を演じる第一歩でもありましたが、受かってからも不安だったんです。そしたら、母親が作品について色々なことを調べだしたんですよ。原作も揃えて。
すみません、こんなタイトルで(笑)。
いえいえ(笑)! 佐藤竜雄監督のホームページもすごく読んでて、母親が(笑)!
あははは(笑)。
そのとき加藤茉莉香のお話をされている記事があったんです。そこでハンサムな女子と評していて、「だって!」と言いながら私にその情報を見せるんです。「自信を持ってやりなさい」と、いろんな情報をかき集めながら応援してくれて。そこで頑張ろう!と気合いを入れて、現場に入りました。でもやっぱり自分が思うように描き切れないというか。言われるディレクションの言葉をそのまま飲み込むんですけど、その解釈ができていない状態だったので、それってどういう意味なんだろう?と思っていました。「言葉を立てる」の意味もわからないし、セリフを言うだけで精一杯な状況で、佐藤利奈さんや周りのキャストの皆さん、スタッフの方々が教えてくださいました。なので、このアフレコ中は吸収するものがすごく多かったですね。茉莉香が受けている刺激と、なんとなく近かったような気がしています。でもずっと不安でしたけどね。オンエアが同時に始まっているわけでもなかったので。
――確か、放送前にはアフレコは終わってたんでしたよね。
アフレコは済んでいたんですけど、撮影が仮のままだったんですよ。これ、いつ納品すればいいの?という状態で(笑)。でも、幸か不幸か、本編作業が最終回の段階でOPとEDを作っていたので、全体像を掴んだ上で作れたのは良かったですけど。
――では、反応がまったくわからない中でのアフレコだったんですね。
客観視がまったくできていなかったです。
収録は終わってるのに放送はしていない、非常に珍しい状況だったと思います。
――監督の中では、若い加藤茉莉香が弁天丸クルーに囲まれているのと同じような状況にして、その化学反応に期待をしていたんですよね?
今回2クールあったので1クールではできないことをやろうと。新人をぶつけて本人が成長するのに合わせてキャラクターも成長するというのはやりたかったんです。なので、本来なら小説の1巻冒頭のように海賊の営業シーンから入って、そこから回想が始まるはずだったんですけど、それがやれなかったんです。本当に素人っぽい海賊営業になってしまうかもしれないから。なのでそこは小松さんの成長度合いに合わせて、構成を変えようと考えました。
時間軸通りになりましたね。
――アニメだと1話を派手目にするという風潮もありますから、勇気がいったのではないですか?
それが常套ではあるんですけど、今回は2クールあるし、最悪5話まで一挙上映しちゃえばいいんだよ!って(笑)。実際にそれは実現しましたけどね。論より証拠で見せるしかない!と。
そうでしたね(笑)。
●アニメ『モーレツ宇宙海賊』について
――すごくクオリティが高いアニメでしたが、これまでの話だと、笹本さんは制作にはノータッチだったんですよね?
はい。原作者チェックなしの全部OKで、もちろんシナリオとか絵コンテは送られてくるわけですけど、見もしないわけですよ。さすがに宇宙船の設定とかはペラペラとめくった覚えもありますし、キャラクターも送られてきたら喜んで見ていましたけど。ただ、どういうものかは全然わからず、初めてアフレコの現場にお邪魔したのも4話だったと思うんです。
5話のアフレコですね
そうか。1話のダビングを見て、5話のアフレコを見たんだ。それを見て、今まで誰も映像作品でやってこなかった[宇宙空間での電子戦]をすごくきっちりやってもらっていて、「俺、ご褒美もらっている」と思っていました(笑)。あと、ちょうどその席で「怒られるかもしれませんけど、お父さんが生きていることにしました」と言われたんですよ。
あははは(笑)。衝撃ですね!
そうですね、「死んだとは言ってるけど、生きていないとは言ってないよな」と……。
すっごい!
先生が来るので、そのときにネタバラシをしようと思ってて。何で小山力也さんがわざわざナレーションをしているのかという。
確かそれはね、その次にアフレコに行ったときに小山力也さんのナレーションを聞いて、「小山さんがお父さんですね!」って私が当てたんですよ。
まぁ、バレるだろうなっていう(笑)。
でも、私は覚えていないんだけど、お父さんが生きてると聞いたときに「それは面白い!」と言ったらしいんですよ。
ホッとしましたね(笑)。
――笹本さんの中では決めていなかったんですか?
いまだに決めてませんもん。だから、劇場版のパッケージの特典で、どうしてお父さんが鉄の髭になったのかという短編を書いたんですけど、あれは完全にサトタツ監督のイメージに寄せて書いたんです。ただ、それが本編になるかどうかは定かではないんですけど(笑)。
なかなかないですよ。原作者が、アニメで改変した設定で小説を書いてくれる……なかなかないです(笑)。
世にも珍しい、監督のチェックを受ける原作者っていう(笑)。
あはははは(笑)
あれはどうでしたか?
いやぁ、面白かったですね。乗っかってくれるんだなっていう。
――この作品は状況が状況だったので仕方ない部分はありますけど、原作をあまり変えないほうがいいと言われますからね。
でも私は、サトタツ監督がやってくれると聞いたときに、それはありがたいと思ったんです。そこで原作者としてできることは何か。それはできるだけ作りやすい環境を整えることだ。じゃあノーチェックだなと。
すごい!
それが一番お互いがラクなんですよ。
でも、後にも先にもこんな仕切りはないと思います。なので、原作を元にしてメカニック設定だったりも考えて、弁天丸も一枚絵しかなかったので、サテライトで独自に作っちゃっていいですか?と。
何でもいいから、好きにやっちゃってくださいと(笑)。原作が進んでいないこともあるし、どうせやるなら好きにやってもらったほうが面白いですからね。私はサトタツ監督を見込んでやってもらったのだから。
――そこまで信頼してお願いしたところで、先ほど電子戦を真っ向から描いてくれたとおっしゃっていましたが、特にアニメになって面白いなと思った部分はどういうところでしたか?
黄金の幽霊船の中には参りましたね。昔回転していたけど、今は止まっちゃっている遠心力式の人工重力の宇宙船の中って、書くだけだからいいんだけど、それを絵で見せてもらったときは「大変だっただろうなぁ、これ」って思いました。
基本的に美術設定は、ロマン・トマさんというフランス人の方がやっていたんです。彼はフランスの美術学校を出ているエリートで、一緒に組んでいるフランスのチームもエリートなんですけど、彼らがこの作品に設定として参加してくれたことは結構でかいんですよね。特に黄金の幽霊船の内部に関しては、日本人にはない感覚で描いてくれたんですけど。
――SFの知識も豊富なんですか?
いや、どちらかというと美術的なアプローチなんです。デザインですよね。いわゆる重力がどう発生して云々よりも、基本は低重力で移動するから上と下は関係ないということにして、円筒形の中に何があるのかというと、日本人としてはどうしても『機動戦士ガンダム』の宇宙コロニーが頭に浮かぶと思うんですけど、あの人たちにはそういう発想がなかったんです。
おそらく頭のなかで構築して描いていったと思うけど、絶対に口でいうほど簡単なことではない。
本来ならもうちょっと尺を使って内部を見せる作りにするんだろうけど、そこをあえて半ばダイジェストにしてしまうというか。文章で読んで理解するところと絵で理解してもらうところを考えると、比重はどうしても人間ドラマに行かざるを得ないんですよね。原作だと(セレニティ王家と弁天丸が鉢合わせるシーンは)読唇術で会話をするんですけど、口パクはアニメだと3枚しかないから見てる方がわからないなと思ったし、モノローグは入れたくないから内容を変えさせてもらって、ハナからグルだったみたいな設定に変えさせてもらったんですけど(アニメ11話~12話)。
――アニメでも、原作と同じく、科学的に細かい描写がすごくあって、SFを見ている!という感覚がありました。音にもすごくこだわられていて、ここは宇宙なんだなって、空間を感じられました。
たとえば海賊船は船のイメージがあるのできしみ音は必ず入れようと思ってましたし…。
昔、海賊映画で帆船とかが出るとあったんですよ。だから、久しぶりに聞いたなと(笑)。
宇宙空間はBGMだけにして、音がするとしたら船内で反響している音だよねってことで入れてたり、そういうこだわりは常に持っていましたね。そういう性質の作品なので。これがまたバトルシップものでガンガンやるというのであれば、あえて船が爆発する音とかを入れちゃうんですけど、そういうのはナシにしました
――本格SFなところと女子高生の日常的なシーンのギャップが面白かったです。
地上でのノイズの入れ方と、宇宙空間、宇宙船内も区別はしていましたよ。
宇宙船内の区別で言えば、オデットⅡ世の場合は無重力状態の完全に上下のない宇宙船で、弁天丸は人工重力付きで、床の方向が違うんですよ。それをちゃんと描き分けているのも大変だったでしょう?
でも、オデットⅡ世はワン&オンリーでしたからね。そういうところでサテライトが誇る河森正治さんにお願いしたら、なかなかデザインが上がってこなくて(笑)。文字面の資料は渡しているけど、どういう方式でやるのかというところで、帆を張って進むのにも限界があるでしょうと。
確か「太陽帆船ってどんなイメージなんですか?」と聞かれましたね。そこで私が答えたのが三段式の折り畳み傘で。
それをこっちで河森さんと話してたら、「傘たくさん付けようよ!」って。「CGだから大丈夫だよ」って恐ろしいことを言っていました(笑)。オペレータは苦労してましてたけど。
――小松さんは、ここまで話を聞いていてどうですか?
いかに簡単に宇宙に行かせてもらえていたのかと感じます(笑)。映像で簡単にイマジネーションさせてもらって、そこにいるかのような体感をさせてもらうのに、どれだけ膨大な情報とそれを構築するものがあったのかと考えると、自分はちゃんと宇宙を感じられていたのかなと考えてしまいました……。
大丈夫大丈夫、誰も宇宙に行ったことなんてないから(笑)。
そうなんですけどね(笑)。でも船を乗り込むことひとつにしても、宇宙で感じることひとつにしても、どんな気持ちなんだろうって考えてしまいます。自分が想像していた以上の世界がアニメでは広がっていたので。これまでも普通に家族で『スター・ウォーズ』とか、宇宙空間でのバトルものは見ていましたが、それとはまた違う宇宙を、茉莉香と一緒に感じられたなと思います。あとは、やはりキャラクターが個性豊かな仕上がりになっていて、どのキャラを思い出しても、あくが強かったなと(笑)。
●アフレコ・プロモーションについて
――当時のアフレコは、どんな雰囲気だったんですか?
小松さんは、さっきわけがわからなかったと言ってましたけど、毎回結構食らいついてくるところはあったし、「じゃあこうしようか」って音響監督と無理なことも要求してたんですよ。「ドップラー効果やって」とか(笑)。
あれは、グリューエル役のとまっちゃん(戸松遥)がお手本を見せてくれたお陰でできました。
まず、ドップラー効果を知らなかったよね。
「ドップラー効果って何ですか?」というところからでした。それを自分がやることでどんな面白さになるのかも想像できなかったですし。
あと、茉莉香が夢を見て、さっそうと宇宙船に乗って戦うという夢のシーンがあるんですけど、「流行りのアニメみたいにやって」みたいなことを言って。
「それ、どんなのですか?」って。
7話の頭ですよね。私もアフレコで見たときに「これは、今まで積み上げてきたものを台無しにするところですね!」って、感想を持ったんですよ(笑)。
松風(雅也)くんだったかな。「ガンダムだよ!」って。こっちでは言わないようにしていたのに言ってしまったな!という。流石に藤原啓治さんはわかってくれたし、ナレーションの小山力也さんもノリをちょっと変えてくれてましたけど。「加藤茉莉香ってこんな世界じゃないんじゃないですか?」と言われたけど、「夢なんで」と説明し(笑)。あと、力也さんは、ナレーションだけだったときから一番最初に来て練習しているんですよね。
ずっと練習されていましたよね。いつも全力で。
でも、そうか~。ドップラー効果を知らなかったというところから、ドラマCDで効果音を自分でやらせるという企画があったんですね(笑)?
あははは。それもありましたね。
BGMだけ使うから、効果音は口でやろうってね。花澤香菜に「ウイ――ン」ってやらせるという。扉が開く音。
笑いを堪えるのが大変でした。開けたら閉まるよなって、2回やっていましたから。
「ト書きじゃないんですか?」と言われたから、「これ、セリフだよ」って。
――かなり楽しそうですね?
面白かったですね、乗りに乗ってやってくれる方ばかりだったので。
――しかもキャスティングを改めて見ると、今活躍されている方ばかりなんですよね、ヨット部のクルーとかも。
だからキャスティングはプロに任せたほうが良いんだ!と、さっきの話につながるんですよ。
それに、ヨット部は同世代だよね?
そうですね。ほぼほぼ同世代です。
デビューして1~2年の子たちばかりだったんですよ。でもまさかね、あのウルスラ役の西明日香が、劇場版(『モーレツ宇宙海賊 ABYSS OF HYPERSPACE -亜空の深淵-』)のときに抜き取りになるくらい忙しくなるとは思わなかった。あとの仕事があるので西さん先に録りますって。
それは安元洋貴さんがビックリしていましたよね(笑)。
でも、劇場版も結構前にアフレコをしてましたでしょ?
コミケのときですね。2013年の8月11日です。要はみんな売れっ子になってしまったので、コミケの日はイベントがないから集まれるだろうと(笑)。しかも1日で録りますという豪快なスケジュールだったんです。劇場は普通2日~3日に分けて録るよね!とか言いながら。
結構夜まで収録しましたよね。
挙げ句に西が抜き取りなんで、すみません!っていう。ここまで調整してもダメなのか!と(笑)。
ほぼほぼみんな集まっていましたからね。
劇場の収録のとき一度もトイレに行ってないからね。
12時間!
水も飲めねえ!って。
後半は、伊藤静さん、堀江由衣さん、甲斐田裕子さんと、みなさんでラジオ体操をしてました。ガッチガチになってきちゃって。
エコノミー症候群になっちゃうってね。
私は劇場版のアフレコにも行けてなかったんですよね。それは決してコミケに行っていたわけではなく(笑)。
でも、時間がない中での作業で、『宝島』だし、夏休みにしようよって言ってたんだけど、ダメだ2月公開だ!と言われ、初号ができたのが公開前々日だったかな。前日はキングレコードとサテライトの人間が、ブルーレイを持って劇場を廻るという。みんなが盤を届けてるとき、僕は倒れてましたね。
前々日に試写がある予定で、午後からと夜からがあったんです。でも、午後は完成してなくて、飛んだんですよね?
撮影が上がってこなくて……。僕、撮影スタジオに3日泊まってましたから。もう、できるまで待つしかないので。
僕は実は3週間くらい前にダビング作業を見せてもらってたので、出来は大体わかっていて、原作者が安心できるようなものを作っていただいたと思っていました。
2014年に公開したんですけど、TVアニメの収録から時間がだいぶ経っているし、その間に小松さんもかなりの仕事をしているので、絶対に前の芝居はできないんだろうと思い、人間関係をいじって新キャラを入れたんです。教え導かれた立場から、同級生でもないさらに年下の少年である無限彼方を出して、いかにお姉さんとして接するかという。他の配役の人は戻ってこれると思うんですけど、茉莉香に感しては、あの頃の芝居は絶対にできないでしょうと。
無限彼方くんはグレ気味の加藤茉莉香として出してたわけですよね。そこで加藤茉莉香がお姉さん役で配置し直したと。
一昨年の大晦日から元旦にかけての、NHKのBSプレミアムさんの番組で、加藤茉莉香を生でアテレコしたんです。
――3つのセリフを視聴者が選んでアテレコする企画がある番組ですね。
そうですそうです。
私も見てました。全部TVシリーズのセリフでしたね。
ホントにできないんですよ! その時のニュアンスって、今真似ても同じには絶対にならないんです。一番難しいお仕事でした(笑)。
わかってないでやってる芝居って再現ができないんですよね。自分が自分のモノマネをやる感じになっちゃう。
そうなんですよ! トーンとか言い方を真似ることはできるんですけど、当時のものにはならないと、改めてその時思い知りました。年月の壁!
――先程の1~5話一挙上映の話もありましたけど、プロモーションの思い出はありますか? たとえばももいろクローバーZが売れたとか。
確か、その一挙上映会のときに、ももクロZさんとご一緒させていただきましたね。
私、ももクロZさんとは会ってないんですよ。
そうなんですか!
とりあえずクリスマス時期だったから、みんなで赤い格好をして来いという感じでしたね。
私たちはパーティードレスで、ももクロZの皆さんはサンタさんの格好で出られていました。私はこの舞台挨拶が初めての舞台挨拶でした。
――でも、ももクロZはその後、『NHK紅白歌合戦』にも出たり、大活躍しましたね。
おかげで、最近の原作者としては珍しく、いろんな歌番組で自分のアニメのオープニングが聴けるんですよ。今でもたまに歌ってくれるので非常にありがたいなと思います。
●6月に発刊予定の新作13巻について
――そして、いよいよ6月には新刊が発売されますね。
続編の新シリーズタイトル案として『超ミニスカ宇宙海賊』というのをとっておいてます。
(一同笑)
もう、Zとかを付けたいですね(笑)。
それは、第3シリーズのときに取っておきましょうか。ミニスカと宇宙海賊の間にハートマークを入れるとか、いろいろ案があったんですけど、こちらで。
――新作に対するプレッシャーはありますか?
これまでも、実は先の展開まで考えてやっていたわけではなく、3行先までしか見えてないというのが普通だったんです。書き始めたときもどうなるかわかってなかったんですよね。
――物語だと、結末をある程度決めてから書き始めそうなイメージはありましたけど。
私はだいたい成り行き任せとご都合主義で話をまとめるほうなんです(笑)。エンディングは自分でもわからないんですけど、今回も頭のアイディアはとりあえずできていて、そこが面白そうだからとりあえずはいいんじゃないのかなと思ってます。
――あとは6月までに執筆が間に合うのかという。
だいぶ余裕を持って6月と言ったつもりだったんですけど、2週間に1回ゲラが届くというのが、予想外に大変で(笑)。今からだと普通なら間に合うはずなんですけど、ゲラを見てあとがきを書き終わったときに、次のゲラが届くので。でも書かなきゃいけないですね。
――小松さんと佐藤監督は、どんなことに期待してますか?
アニメに対しての笹本さんのスタンスと同じで、私たちは見守ってるだけですよ(笑)。
行き当たりばったりと聞いて、逆に安心してしまいました。まだまだ終わらないで続いてくれるんだなって。
アニメはある程度の着地点がないと作れませんけど、そこはちょっと小説と映像で違うところかもしれないですね。
――いくらでも続けられると。
今現在思い付いているネタは2つしかないんですけど、これまでもそういう感じだったので、あまり心配はしてないです。
確かにアニメ化のときも「この先どうなるんですか?」と聞いたら「考えてない」と言われたんですよね。そこで、これは自分で考えるしかないんだなと思ったので。
――続くのであればアニメも期待したいですよね。
そうですね!
ただ最近はアニメの現場も大変そうだからね、様子を見ながらのほうがいいのかな?って(笑)。
でも、今の状況を見てると、本当にいいタイミングで最初のアニメ化ができたんだなって思います。
そうですね。当時から本数は多いと言われてたけど、今に比べたらまだ少ないですからね。
――今見ても、ものすごく丁寧に作られてる作品だと思いました。
本当に時間をかけて作っていたので。
監督が時間をかけてくれたんですよね。
設定は最初に考えてしまえば、映像で辻褄が合わせられるので。でも、テレビのときに「あっ!」と思ったのが、ケイン・マクドゥガルが3話で、宇宙服では前髪を中に入れといてくださいと言ってるけど、描き分けができないと前髪を描かれてしまったんです。劇場こそは前髪をしまおうと思っていたら、デザインの方が気を利かせて前髪を入れた設定を流してしまって。なので、また今度やるときは、前髪をしまうようにしようかなって思ってます(笑)。
まぁ、見た目は出てるほうがかわいいんだけどね。
――では最後に、新刊についてのコメントをお願いします。
う~ん、気の利いたことを言いたいけど、「再発進の時間だ!」と言うのもねぇ。でも、いつも通り、先は見えてませんけど、今までずっとなんとかなってきたので、これからもなんとかなると思ってますので、よろしくお付き合いください。
どっちみち読み直さなければならないと思っていたのでいい機会なのですが、読み直すのとチェックするのとでは全然読み方が違うなと思ってます(苦笑)。周りに何かがあると逃避してしまうので、キーボードを片付けてゲラを広げて、本当に何年ぶりかに電気スタンドを出して作業をしています。